
石川テレビニュース
ISHIKAWA TV NEWS
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【能登人を訪ねて】#69~奥能登豪雨から1年 輪島彩花亭尾花山哲夫さん~
去年9月21日の奥能登豪雨から間もなく1年です。今回は、豪雨で店を失いながらも、前を向く飲食店主の物語です。
稲垣真一アナウンサー:
「輪島市の中心部・河原田川沿いに来ています。今は静かに流れるこの川ですが、1年前、豪雨によりこの川があふれ、辺り一帯が水に浸かりました。その傷跡は今も残っています。そんな川沿いに一軒のお店があります。ここの店主は1年間、ままならない思いを抱えながら、いつか来る復活の日を信じて毎日を頑張っています。今日はこちらの店主にこの1年間、そしてこれからについての思いを聞きます」
稲垣アナ:
「輪島市の彩花亭さんですね…あー、お久しぶりです!」
尾花山さん:
「お久しぶりです!」
輪島彩花亭の店主、尾花山哲夫さん。輪島市出身の尾花山さんは、1999年からこの場所で人気の料理店を営んできました。能登半島地震で被害を受けたものの、3カ月後に復活。着々と復興の道を歩んでいました。
しかし去年9月の奥能登豪雨ですぐ脇を流れる河原田川がはん濫し、店はあっという間に泥水に飲み込まれました。1m以上の浸水。春に新調した調理用の什器のほとんどが使い物にならなくなりました。
尾花山さん:
「頭を不意打ちに後ろから殴られたというかね…しばらく何にも考えられなかったですね。心が折れそうじゃなく、もう折れたというのが近いですね…」
そんな中、心を奮い立たせてくれたのは多くのボランティアでした。
ボランティア:
「頑張ってください」
尾花山さん:
「ありがとうございました!」
ボランティア:
「再開したら食べに行きます!」
稲垣アナ:
「豪雨があって一年経ちましたけれども…」
尾花山さん:
「もうそのまま…(去年)10月の初めぐらいやったかな…お店がこの格好になった。それからそのまんま。乾いただけ。」
稲垣アナ:
「この1年間は早かったですか、遅かったですか?」
尾花山さん:
「うーん…早かった。遅いという時もあった。最初の10月、11月とか1日が長くて長くて…」
稲垣アナ:
「今机とかがあった場所には食器がたくさん置かれているんですけど…」
尾花山さん:
「地震で助かったのと、豪雨で助かったのとを実家に避難させていた。ところが実家の方も畳を上げて(修復)工事をしなければならないということで、避難させた食器をどうしようという事で…(店を)やるところもないし、ここに持ってきて、ほしい人にあげようということで…本当はもっとあったんですよ。」
稲垣アナ:
「ずっとやってきたお店でしたから一つ一つの食器が…」
尾花山さん:
「そうそうそう、子供か孫みたいなものですよね。一つ一つ、全部思い出があるし…でも持っていても使わないから置く場所がないし…(被害に遭った飲食業界の)皆さんがおっしゃるのは『場所がない』と…『家も潰さんならん、店も潰れてしまった。せっかく助かった食器やら什器、備品があるんだけどそれを避難させる場所がない』というのはよく聞きますね。」
稲垣アナ:
「特に思い出深い品はありますか?」
尾花山さん:
「この皿が…単純でそんなにいいものではないんだけど、大阪に行ってたまたま見つけた皿で…ここに大エビを揚げて売っていたんです。この皿を探すのに、当時結構苦労をした思い出があります。」
稲垣アナ:
「地震や豪雨がなければ…」
尾花山さん:
「そうそうそう、ありますね。なければ私も74、5歳になるので、まだ5年、6年ぐらいゆっくりとここでのんびりとやるという気はありましたねけど、それが打ち砕かれたというか…寂しいもんですよ本当に」
稲垣アナ:
「ここのお店はどうなるんですか?」
尾花山さん:
「ここは公費解体です。見ての通り、ここは川と同じくらいの高さだから、また水害というリスクがあるので…公費解体して更地にしようという事で。」
この日、解体工事を行う業者とコンサルタントが打ち合わせに訪れました。
解体業者:
「公費解体の範囲は、建物の上屋と基礎までです。」
コンサル業者:
「業務用の冷蔵庫とかは…」
尾花山さん:
「業務用冷蔵庫は、水害で全部流れてなくなったんや。」
解体業者:
「あらら…」
尾花山さん:
「ずーっと冷蔵庫入っとったんやけど、ここに全部倒れていた。ここまで水が来たから…」
コンサル業者:
「こちらは再建予定はございますか?」
尾花山さん:
「ここは再建しません。別のところで考えていますんで…」
そんな尾花山さん、毎日夕方前になると「ある場所」に通います。そこは、輪島市内の焼肉店。今年1月から、ここで肉の仕込みなどのアルバイトをしているのです。
稲垣アナ:
「今何をしているんですか?」
尾花山さん:
「これは『バラ山』って言って、それを外した所が味が凝縮していておいしいと…」稲垣アナ:
「包丁を持って食材を扱うというのは。」
尾花山さん:
「楽しいね。毎日食材の顔色も違うし、スタッフの顔色も違うし、水の味も全部違うし、楽しい…」
稲垣アナ:
「使っているその包丁は?」
尾花山さん:
「これは(前の)店にあったやつです。やっぱり慣れたものでないとね。」
稲垣アナ:
「やっぱり手つきも顔つきも引き締まりますね」
尾花山さん:
「いやいやいや…ちょっとダレてしまう」
尾花山さんに声を掛けた店の社長も信頼を寄せています。
塩士社長:
「尾花山さんは輪島でも有名な方なので、本当にうちの店に来てくれるんかなと思いながら来て頂いて…常に前向きで明るい方なので、お店も明るく営業できているなと思います。」
尾花山さん:
「一生懸命走ってきた人間が突然崖から落とされたようになると…あのままおるとおかしくなっていたかもしれない。仕事が本当にあってよかったと思いました。」
稲垣アナ:
「1年経っても…」
尾花山さん:
「同じですね。」
稲垣アナ:
「まだ土嚢が積まれたままで…」
尾花山さん:
「ここは(豪雨後)初めて来ました」
稲垣アナ:
「やっぱり色んな事があっても輪島はふるさとですか?」
尾花山さん:
「そうですね、もうこの年になるとどっぷり浸かっているんで離れる気もないし、
ここで骨をうずめます。」
稲垣アナ:
「この後というのはどのように考えていますか?」
尾花山さん:
「(輪島の)商店街さんなどで一生懸命頑張っておられるような『飲食ブースを作ろう』という話を頂きましたのでそちらに少し申し込んで、行政の方々、商工会議所の方々、商店街の皆さんと一緒になって、そちらで盛り上げられないかなと頭の中で今思っているところです。」
稲垣アナ:
「本当に生涯現役ですね。」
尾花山さん:
「生涯現役です。」
稲垣アナ:
「復活の日はどれぐらいをみているんですか?」
尾花山さん:
「どうでしょうね、本当は来年中に何とかなればと思っているのですが、もうちょっと先になるのかなと…」
稲垣アナ:
「僕も含めてそのお店の復活を楽しみにしている人が皆待っているんで…」
尾花山さん:
「そうですね、先ほどの店舗にもボランティアで来て頂いた方が『再開を待ってる』と言ってくれたので…そういう事も糧にして頑張りたいと思います。」