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「50年おるんやから」半世紀住み続けた旅館の再建を阻む壁 能登半島地震から1年3カ月

輪島市の海沿いを走る国道249号です。黄色いカーブになっているところはう回路なのですが、ある建物に重なっています。この建物は旅館でしたが今は公費解体されて
更地になっていまして、その更地のうえに今はう回路が走っているということです。

私たちはこの場所で旅館の再建を目指す男性に出会いました。男性を取材すると奥能登でのなりわい再建を阻むいくつもの壁が見えてきました。

板谷さん:
「50年おるんやからね、半世紀おるんやから、やっぱり中々離れろって言われても離れられないですよね。貧乏でも不自由でも育ったところがいいよね。」

板谷秀次さん(58)。輪島市大野町(おおのまち)のこの場所で旅館を営んでいました。

地震前の写真宿の名前は城兼(しろがね)旅館。客室から見えるオーシャンビューが自慢の宿でした。しかし…

去年の能登半島地震で大規模な地すべりが発生。

リポート:
「輪島市上空です。民家が倒壊しています。」

城兼旅館は倒壊し、住宅と間違えられるほど元の形が分からなくなっていました。旅館の前を走る国道も土砂に押し流されました。

板谷さん:
「これがセンターライン。」

1年3カ月が経つ今も国道は復旧中。う回路が走っているのは旅館の敷地内です。

板谷さん:
「あそこにウッドデッキがあってバーベキューできるスペースがあって、花火も見えて、漁火ももちろん見えます。」
Q 再建については?
板谷さん:
「出来ればここでやりたい。でもこれをいつよけてくれるのか全く分からない。うちらの土地の上を通している道路も。山もどうしてくれるかも分からない。」

道が今後どうなるのか。山の地すべり対策はされるのか。国からは説明がありません。

板谷さん:
「行政は縦割り行政やから、山は農林水産省。国交省は知りません。じゃあどうすればいいの?」

Q もう何度か問い合わせたんですね
板谷さん:
「問い合わせとるけども全く…。」

行政の復旧工事が進まないために再建にとりかかることができないケースは、板谷さんの他にも数多くあると見られています。

板谷さん:
「先が見えない。半年たてば何かなるかと思っていたけど。」

輪島市商工会議所で…

板谷さん:
「おじゃまします。」

板谷さんのなりわい再建をサポートしている、県の経営支援課、枝久保貴継(えだくぼたかつぐ)さん。

板谷さん:
「プランの立てようがない。」

再建への壁は国の方針が決まらないこと以外にもあるといいます。

それは奥能登全体が抱える課題です。

能登事業者支援センター 枝久保貴継さん:
「修理とか建て替えの現場の様子を見てくれる業者の方、工務店の方が中々捕まらない、設計士さんが捕まらないとか、あとは最近やっと見積もりが出てきても思ったより高かったとかそこでちょっとまた足踏みとか、そういうケースが多いんじゃないかと思います。」

まずぶつかる壁は、業者の人手不足で現地調査などができないこと。ようやく見積もりまで行っても次は建築費の高騰という壁が待っています。業者の移動費や宿泊費がかさむ奥能登では地震以降、建設にかかる坪単価が20万円から50万円ほど高くなっているといいます。

この半年間で県の能登事業者支援センターが受けた相談は1400件以上。

一方、「なりわい再建支援補助金」の給付は能登6つの市と町で合わせて318件と本格復旧まで進めた事業者の数は限られています。

この日、板谷さんの旅館があった場所に枝久保さんが建築士を連れてきました。今後に向けて専門家からアドバイスがもらえるのではないかと考えたからです。

建築士:
「相当なお金がかかる。整地するだけでも予算近くいってしまう。」

建築士が指摘したのは、敷地内に大きな段差ができていること。地すべり対策についても国の対応によっては自力で擁壁を設置しなければならず費用がさらにかさむことが分かりました。

それでも結局は…

建築士:
「どこまで行っても国の遅い対応のせいで方向性が決められない。これさえ決まっていればいくらでも話進められるんですけど、これ決まらない限り、ほんと苦しいなって正直思いましたね。」

先が見えないまま、ただ時だけが過ぎていきます。

板谷さん:
「こんなところで再建したってできるかできんか分からんのに、1年以上経ってしまうと…と思いながらボランティアの方でも応援してくれたりしますから、そう思うともうちょっと頑張ってみようかなとか。毎日色んなこと葛藤しています。寝れないです、本当に。」

先週、ようやく国交省と農水省から板谷さんのもとに連絡があり今月中にう回路の土地を返却できること、1,2年後をめどに山の地すべり対策と国道の補強を行うことなどが説明されたといいます。

この場所での再建を目指す板谷さんにとって一歩前に進んだと言えますが本復旧の完了時期などは示されておらず課題はまだまだあります。

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