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【能登人を訪ねて】#50 地震を乗り越え、能登の果樹を守る…果樹農家の決意と盟友への思い

去年4月から始まった能登人を訪ねては、今回で50回目となりました。
きょうは、能登町柳田(やなぎだ)で果樹園を守るある男性の物語です。

(稲垣)
「能登町柳田に来ています。ここで様々な種類の果樹を栽培する
 果樹農家の男性がいます。やむを得ずこの場所を離れざるを得なかった
 友の思いも受け継いで…この地で踏ん張るその思いとは」
(稲垣)「あー、こんにちは!」
(柳田さん)「こんにちはー。 宜しくお願いします」

果樹農家を営む柳田尚利(やなぎだたかとし)さん。
大阪府出身の柳田さんは2012年、農業研修生として石川に。
輪島市の農業法人を経て2017年に「陽菜実園(ひなみえん)」を開業し、
現在は能登町各地で果樹の栽培を行っています。

(稲垣)「この木は何の木になるんですか?」
(柳田さん)「柿の木になります」
(稲垣)「何本ぐらい植えているんですか?」
(柳田さん)「約200本ぐらいですね」
(稲垣)
「家にも柿の木はあるんですけど、普通は枝が横に伸びて柿がなるものだと
 思っているのですが、 この木は枝が全部垂直に上がっているような…」
(柳田さん)「そういった仕立て(剪定)をしています」
(稲垣)「どうしてですか?」
(柳田さん)
「ウチは美味しくなるという理由で『無肥料栽培』なんです。
肥料をまいていない栽培で、木を元気にするために
(枝を)上に上に伸ばして仕立てているんです」

柳田さんが育てているのは渋柿の一種、平核無柿(ひらたねなしがき)。
元々糖度の高い品種ですが、さらに糖度を高めるために
柳田さんは独自の手法で肥料を使わず栽培しています。
この栽培法に最も適しているのが、「枝を上に伸ばす」剪定なのだそうです。
ちなみに…

(柳田さん)
「今年この先に枝が出来るんですけど、(柿の実は)この辺りとかに
なってしまうんですよ」
(稲垣)「そうなんですか!今のこの剪定の時期だけ見られる光景なんですね」

しかし、こちらの柿園にも地震の爪痕が未だに残っています。

(柳田さん)「地震で地割れして、下の方が沈んだ感じ…」

こちらでは、約100メートルにわたり、70センチほどの段差ができました。
自力で段差を埋めましたが、作業車が移動しづらく農園の管理に支障があるため、
現在は国に修復工事を申請している段階です。
さらに、輪島市町野町にある自宅も…

(柳田さん)「あ、土足で…」
(稲垣)「いいんですか、失礼します…」
(柳田さん)「ちょっと雨漏りが酷くて…」
(稲垣)「本当だ…」

自宅は半壊、公費解体を申請中で現在は仮設住宅で暮らしています。

(稲垣)
「ここを離れるという選択は考えませんでしたか?」
(柳田さん)
「考えました、考えました。一番最初に考えました」
「大阪に帰って別の職に就くことも考えましたし、別の場所に移って
 農業をするという事も考えましたし…」
「家族と会議して、 家族が残りたいと言ったり、柿自体も8年やって来て
 やっと自分らしくなってきたところもあったし…なかなか離れられない。
 やっと馴染んできたという感じだったので…」

独立して8年、試行錯誤しながらようやく形になってきた農園。
地震なんかに負けるわけにはいきませんでした。
苦労したからこそ得られる、実り。

(柳田さん)「去年の地震後に作った 干し柿なので、食べてみてください」
(稲垣)「ありがとうございます。 すごく貴重なものですねこれ…」
「すっごく甘いですね!」
(柳田さん)
「甘いのは、あの仕立てのおかげで甘いんです。元々の柿が甘いので、     
 干して水分を飛ばしたらさらに甘くなる」
(稲垣)
「剪定から全てつながっているわけですね。
 それがこの干し柿に繋がっているわけだ…」
(柳田さん)
「『おいしい』って言われたら、それだけで満足です。
 おいしい柿を皆さんに食べてもらって…
 ま、おいしいって言われたいです」

柳田さんは、今年からある果樹の栽培を行うことになりました。

(稲垣)「柳田さん、この場所は…」
(柳田さん)「松尾栗園、旧松尾栗園ですね」
(稲垣)「あの松尾さんが、柳田さんに託した」
(柳田さん)「農地です」

栗農家・松尾和広さん。
柳田さんとは10年来の移住者仲間です。この地でおよそ20年にわたって
栗の栽培を行ってきましたが、去年の地震で自宅と作業場が全壊。
苦渋の決断で能登を離れて一家で静岡県に移住し、
現在は静岡で和栗を世界的なブランドにするプロジェクトに参加しています。
能登を離れる際、松尾さんが人生をかけて作り上げてきた栗園を託したのが、
盟友の柳田さんでした。

(柳田さん)「この土地は、どんなにいい人が来てもやらせたくないという
       気持ちが強かったんですね、僕にとって。他人にやらせたくないと…」(稲垣)「そうなんですか」
(柳田さん)「5月ぐらいに松尾さんと2人で1時間ぐらいしゃべる時間があって、
       その時についポロっと出ちゃったら、思いが止まらなくなっちゃっ
       た…そしたら、あれよあれよと決まっちゃって…」

友の思いを受け継ぎ、一枝一枝、剪定していきます。
作業が一段落した頃、柳田さんに松尾さんからのビデオメッセージを
見てもらいました。

(松尾さんのビデオメッセージ)
「柳田さん、本当に引き継いでくれてありがとうございます」
「柳田さんじゃなかったらやっぱりすごく不安な部分もあったんですが、
 誰よりも柳田さんがやると言ってくれたので…
 心強く、安心して託せることができました」
「お互い、いい栗農家を目指して美味しい栗を作っていけるように
 頑張りましょう!」

(柳田さん)
「ううう…すいません」
「頑張ります。僕、でも栗農家にはならないです。僕は『果樹農家』なんで」
「松尾栗園の栗は当然一番ですけども、『この地域の果樹を守っていきたい』
 という気持ちがあるので、リンゴでもブルーベリーでも
 引き受けます」
(稲垣)
「この地の果樹をどのようにして守っていきたいと思っていますか?」
(柳田さん)
「手の届く範囲は園地として守っていけたらなと思いますね。
 より美味しくして、『能登の果樹』みたいな
 ブランドになれば嬉しいですね」
「果樹は僕が頑張るし、色んな人の助けを得て守っていくので…頑張ります」
(稲垣)
「また実りの秋に伺わせて下さい」
(柳田さん)
「ぜひまたお越しください」
(稲垣)
「これからも宜しくお願いします」

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